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原作:斉木楠雄のΨ難
僕は斉木楠雄。生まれついての超能力者だ。
超能力と聞くと、どうしても便利だと想像しがちだがとんでもない。幼少からこの力に振り回されている身としては、「否」としか思えないのだ。
たとえば、石化能力。裸眼で視た相手をきっかり一日石化させてしまう恐ろしいものだ。しかも常に発動している。テレパシーもだが、常に発動し続けている能力に至っては解除自体ができない。
頭に二つつけたアンテナみたいな制御装置も、一つ取るだけで能力の加減が難しくなる。何なら年々力そのものが強まっているくらいだ。
そんな訳で、しばしば自分の能力を試す必要がある。
普段なら衛星画像等に細工をしてから、荒野の岩山のような誰もいないか見てない場で身体能力を確かめたりするが、今回は室内でも可能な実験だ。
分身(バイロケーション)。僕の分身を生成する能力だ。制御装置を外した状態でも一人しか出せないし、分身は本体と同じ力を使えるが容姿と性格は微妙に変わる。
分身が更に分身を生み出すのは可能だが、繰り返すにつれてどんどん姿、性格、嗜好が毎回バラバラになり、制御が効かなくなる。僕らしいピーキーな能力の一つだ。
今回は自分の部屋で分身をどこまで出せるか試してみる。以前は三十七体までだった。今は四十体を超えたあたりだ。
「楠雄~、ちょっといいか?」
ん?どうやら父さんが副業をしたいらしい。いつものトンチキ発言だが聞いておこう。
「父さんな、副業で靴磨きをしようと思うんだ」
まず出版社の編集者が副業して大丈夫か?
「あくまで社内限定って条件で許可貰えたんだよ」
それで良いのか終焉社……。父さんの記憶とイメージを覗いたら、重役も嫌悪している訳ではないようだが………まあ、うん、そりゃ奇特な目で見られるよな。
「って、また分身出したの?」
ああ。時間がある時にやろうと思いながらも、最近試していなかったからな。
何だかんだ父さんと会話を終えて、部屋で実験を再開しようとした時だった。
僕の耳に甲高い嫌な羽音が入ってくる。蚊だ。姿はまだ見えないが。
「お、見っけ」
すぐに画風の違う分身がサイコキネシスで仕留める。
「そろそろ良い焼け具合じゃない?」
僕を女体化させたような姿の分身__斉木栗子は、厳つい半魚人型の分身に話しかけていた。どんな姿か想像しにくい人のため補足すると、漫画やアニメにも登場したあの青紫色の彼だ。
半魚人型は、鶏肉を発火能力(パイロキネシス)で適度に炙っているようだ。四十人超えの大所帯となれば当然部屋も狭くなるため、宙に浮かせながら作業していた。絶対に天井焦がすなよ。ところで今焼いている肉は、わざわざ冷蔵庫から持ってきたのか?
恰幅の良さげな分身は意外にも興味なさそうだ。
ただのおじいちゃんにしか見えない者、モヒカン頭の者、若干やつれ気味の顔の者、幼少期の僕みたいな者、隙間女みたいな者等、他の分身達を見れば皆ボーッとしているか駄弁っていた。自分で言うのも変だが、こうして召喚してみると中々現実離れした光景だと本気で思う。
ん?おかしいな、分身が一人足りない。一体どこに行った?
「ついさっき外に出た」
三十七体目の液体人間型と弁髪の武術家型の分身が開いた窓を指差す。今言う情報じゃないが、彼等も原作に出ていたぞ。
咄嗟に窓から消えた分身が何処にいるか確認した。その分身は透明化の能力で、人目を気にするかのように家の庭でジッとしていた。だがどうも嫌な予感がする。
参ったな……。記憶が間違ってなければ、あいつは確か四十体目以降に生み出した分身だ。三十七体目を更にドロドロにした風貌だからすぐわかった。
最初に述べたように、分身は複製すればする程制御が効きにくくなる。以前、とある噴火を防ぐため分身を召喚した時も、肝心なところで一人の制御が効かなくなった。
だが、僕が危惧しているのは、いずれ分身の中に本体である僕を上書きする、もしくは完全に独立する者が現れかねない点だ。
今回の複製実験は、その辺の細かい条件を調べるためでもあったが、どうやら裏目に出てしまったらしい……。
「ど、どうしよ。知らないとこに来ちゃった……」
さ、最悪だ。まさかこの状況で鈴宮さんが我が家の前に来るとは……。
いや、テレパシーで近所にいるのは知っていた。しかし、ここまで僕に接近してしまったのもおそらく彼女の体質、不運の影響だろう。
「不運(アンラック)か。癖は強いが、自爆以外にも使い道がありそうだな……」
静観していた四十体以降の分身が小さく独り言を漏らす。流石に「四十体以降」のままだと呼びにくいので、内敵、いや「イド(Id)の分身」と呼ぼうか。
イドは心理学だか精神分析だかで、人間の本能とか無意識とかを指す言葉だったはず。詳しくは各々調べてくれ。僕は兄(空助)と違い学者じゃあない。
理由は不明だが、イドの分身は鈴宮さんに目をつけているようだ。何をする気だ?
僕は目的を探るべく、分身に向けテレパシーに意識を集中させた。
(鈴宮陽衣の超能力じみたあの体質を利用すれば、俺が本体から分離できるやもしれない。試す価値はあるはず。お、流石に本体も俺の狙いに気付いたか)
僕の考えを覗いたイドがこちらをチラリと見たが、再び視線を鈴宮さんに戻す。手荒な真似はしないようだが、黙って静観しとけってか?
そろそろまずいな。明らかにこいつは策を練って僕の制御下から抜け出そうとしている。その算段が成功するかはともかくとして。
(そういやこの街、結構超能力者がいたよな。燃堂や灰呂、明智とかも片足突っ込んでるし、鳥束や照橋は言うまでもないが)
イドは他にも目をつけていたらしく、僕に馴染みのある名前を思い浮かべていた。
僕には皆の力で分離できるとは考えられないが。それか人質にでもするつもりか。
「お、おい。あれ止めないとヤバいんじゃ……」
栗子こと一体目の分身の指摘通りだ。無論、既に対策は考えてある。問題はこの案が、どこまでイドに読まれているか把握しにくい点だ。ここはもう賭けるしかない。
僕が何をするのかイドもテレパシーでわかったらしく、明らかに反応が変わった。逃げる気だ。
(!一旦、タイムリープなり距離を取っ__)
させる訳ないだろう。
あらかじめ眼鏡を外していた僕は裸眼でイドを視認した。良かった。石化能力はあいつにもちゃんと通る。
不幸にも、イドの分身は石化してしまい、サイコキネシスで粉々に砕かれそのまま消滅した。
何となくだが、僕にはイドが自らの黒い面や膿を凝縮した存在のように思えた。今回はイドの狙いが破壊ではないのに加えて短時間で解決したから良かったが、もしあいつが初めからマインドコントロールや地球への復元能力でも乱発してたらどうなっていたやら……。想像したくもない。
思えば、分身を数えるまでいなくなったのに気が付かなかったのは、幻覚か催眠能力で僕の目を欺いていたのだろう。我ながら恐ろしい力だ。
その後鈴宮さんは、見覚えのある道に辿り着いて何とか事なきを得たのを千里眼で確認した。もしやイドが起こるはずの不幸の大半を、結果的に肩代わりしていたのか?いや、まさかな……。
まあ、彼女の不幸体質を利用したとて、どのみち僕の分身である絶対的事実から逃れられなかった訳だ。僕としても、これ以上身近に厄介者を増やしたくない。
現にここの作者も才虎、燃堂、明智達のような問題児の扱いにはかなり困っているらしいからな。
終
斉木栗子(分身)
一体目の分身。女体化しても顔は本体と若干違うが、後日照橋達に妹として紹介しても問題なかった。
四十体目以降の分身こと「イドの分身」
楠雄から分離しようとする性格と、三十七体目をより液状にしたような容姿が特徴。楠雄も指摘してたが、こいつがのっけからマインドコントロールやタイムリープ等を乱用してたら詰んでた可能性がある。
鈴宮の体質と制御が効かなくなった弊害か、思考があまり共有できないため何番目かは不明。
また、本来は一瞬で消せるはずが上記と同じ理由に加え、鈴宮の超能力じみた不運体質により消すのに時間がかかった。
声は二代目ニャンちゅうやヒロアカの心操役の人を想像してる。
おまけ(多作品ネタなので苦手な人は読まなくていいです)
おい。確かに分身は基本ランダムだし、題名にも「Ψ」(プサイ)はあるが、だからって本当に喚(よ)ぶやつがあるか。
バンダイと東■にも本気で怒られるかもしれないだろ。
僕は、顔面にでかでかと青い「Ψ」の文字が赤紫の複眼と共にあり、ジェットパックと妙な腕時計を着けた白を基調とした軽装の鎧の分身を見て、他の分身達と共にしばらく呆然としていた。
ここに遊太くんがいたら興奮するだろうか……。
ローソン傘下の劇場のみですが、四十年越しに「トランスフォーマー ザ・ムービー」が本格的に初上映されるのが決定しました。
