KSIの顛末を聞いたスティールが質問する。
「それで君等はどうやってここまで?」
「あー、これもちょっと複雑でね・・・」
KSIボス率いるスカベンジャーズが、今のような集まりになったのは、香港の戦いまで遡る。
ガルバトロン(転生したメガトロン)の指揮下と、オートボットの攻撃を逃れることに成功した個体が、次第に集まってゆき、その過程でロックダウンの元部下の一人も加わった。
シャドウレイダーというオレンジ色のトランスフォーマーである。
彼女の援護もあり、スカベンジャーズは死地を脱することができた。
香港を切り抜けた彼等は、隠れながら移動し続け日本に到着した。
その後も逃走生活は続いたが、この村に来てからは、落ち着いた時間を過ごしていた。
「そして今に至るってこと。」
KSIボスの話を聞きながら、スティールは黙々と着いて行く。
「ここだよ。」
彼女は歩みを止める。
目の前には茂みが広がっていた。
「この中に隠しているのか?」
スティールの問いに彼女は頷くと、茂みの中へ入って行く。
彼もそのあとを追う。
しばらく進むと、迷彩模様のシートに覆われたものが見えた。
中には彼の乗っていた戦闘機がある。
機体を指してKSIボスが言う。
「今日はもう遅いし、本格的な修理は夜が明けてからね。休む場所はどこがいい?」
「野宿でもいい。なるべく、ここの者達に迷惑をかけたくないんだ。」
翌朝
スティールはワイバーンの姿で、車庫近くにある木の根元で寝ていた。
この土地の所有者は、トランスフォーマーの数少ない味方で、敷地内での寝泊まりを許可している。
スカベンジャーズも例外ではない。
「おーい。起きてくれ、銀騎士。」
一人の人間が寝巻姿で、就寝中のスティールに声をかける。
その声に、彼はロボットモードに変形しながら応答した。
「銀騎士とは私のことか?・・・なぜ人間がここにいる?」
「そりゃ、ここは実家の敷地だし・・・」
スティールが面食らったのも無理はない。
なぜなら現在の地球では、トランスフォーマーという種族自体が不法に滞在する厄介者・敵として見られており、世界規模でトランスフォーマーを排する動きが活発になっている。
(キューバやとある英国貴族の土地のような一部を除く)
「ここが君の家なのは分かった。しかし、なぜ私を怖がらない?今、世界中の人間が、我々を排除しようとしているそうだが・・・」
スティールの最もな問いに、男性は答える。
「あ、そうか。銀騎士はこの村に来るの初めてだっけ。」
「スティールベイン。それが私の名だ。」
「すまない、スティールベイン。来客は久しぶりなんだ。支度して来るから、少し待っててくれ。」
男性が、小走りで家に戻ると同時に、KSIボスが来た。
「おはよう。彼に会ったようだね。」
「あの人間のことか?」
「うん。会社員だけど、精神病の療養も兼ねて帰省中なんだってさ。」
精神病という単語に、スティールは違和感を覚えた。
先程の青年は、そこまでやつれてはいなさそうだったが・・・。
その思いを察したのか、KSIボスが解説してくれた。
「ああ見えて繊細な性格なんだよ、彼。私達と最初に出会った時なんか、腰を抜かしていたからね。」
「そ、そうなのか・・・。ん?」
二人が話していると、スカベンジャーズ達がスティールの戦闘機を運んできた。
既に機体は修理されており、汚れは一つも確認できない程に洗浄されている。
「朝早くから、皆ありがとう。」
KSIボスが仲間に感謝の意を述べた。
「もう直ったのか」
スティールの質問に、彼女は答える。
「トゥーヘッド達に協力してもらったんだ。」
「どうも。」
トゥーヘッドと呼ばれた双頭の大柄なトランスフォーマーが、軽く会釈をした。
他には赤い蜂のような者や青い者、昨夜出会ったトラックスもいた。
「何度もすまない・・・」
「このくらい何てことはないさ。」
申し訳なさそうにするスティールに、オレンジ色のトランスフォーマー シャドウレイダーは余裕な態度を見せる。
「早く乗った方が良いんじゃないか?別に、この村に留まりたいっていうなら、それも構わないが。」
トラックスが言う。
「そうだな。もしかしたら、追手がここまで来るかもしれない。滞在したい気持ちもあるが、これ以上迷惑はかけたくないんだ。」
スティールは戦闘機に搭乗すると、スカベンジャーズに礼を述べた。
「本当にありがとう。この恩は忘れない。」
「これからどこ行くの?」
KSIボスが質問する。
「あなたの言っていた、ケイド・イェーガーという男を探そうと思う。」
「それは構わないけど、今の彼の居場所は分からないよ。アメリカで、市街地から離れた場所に隠居しているって噂は、聞いたことあるけど。」
シャドウレイダーが怪訝そうに口を開く。
「ああ、ボスから聞いたよ。それでも、場所が絞れるだけ幸運だ。後は虱潰しに探せばいい。」
その時、KSIボスが彼の所属について聞くのを忘れていたことを思い出す。
「そういえば、最後まであなたは、何者か教えてくれなかったね。あ、言いたくないならーー」
「私は誇り高きアイアコンの騎士、その一人だ。」
先程の青年が戻って来たのと同時に、スティールは機体を発進させた。
最初の目的地は、荒廃したシカゴだ。
エピローグ
どこかの森
緑色の小さなディセプティコン イゴールが、自作の六脚ドローンに付けた端末を操作している。
「仲間」に情報を送っているのだ。
その情報には、先程の見慣れない戦闘機も含まれる。
この小柄なディセプティコンは、今でもバリケード等仲間達へ、少しでも役立ちそうな情報を発信し続けているのだ。
「そろそろ、休憩したらどうです?」
インセクティコンの助言が聞こえてないのか、イゴールは黙々と作業を続けた。
この辺境の地で。
終(最後の騎士王へ)